國學院大學の藤本です。皆様、宜しくお願い致します。
私は、これまで神社神道の社会貢献活動や社会活動について研究を行なってきました。また、近年では神社の維持運営や管理に関わる問題に対しても研究に取り組んでいります。そのような経緯もありますので、今回、石井先生から提示戴きましたテーマに対して、「神社と神社の社会活動の未来を考える」と題して話を致したいと思います。
まず近年では、特に「夏詣」や「社子屋」など、最近では新型コロナウィルスの感染拡大・感染防止に伴って、初詣の期間を年末から年始にかけ三カ月程度に延長するといった動きや、人々が様々な行事に対しても、今までのように大勢が一カ所の部屋に集まることが難しいこともあって、様々な工夫がなされています。そういうなかで、実際に神社がどういう活動を行なっているか、また、そもそも祭礼などをはじめとして、これまでと変わらず神社の諸活動が行われているのか、中断したままなのか。
特に社会活動といっても、神社の場合はどちらかといえば、社会教育活動に関してのものが大変多いこともあります。そういった点も含めて、2030(令和12)年に向けた、神社の社会活動の未来予測をしてみたいと思います。
もう一つは、神社数の未来予測です。これは、先ほど板井先生から三重県の白地図を使 った話がなされていたかとは思いますが、全国の神社数の未来予測ということについても少し指摘ができればと思います。
石井先生からいただいたテーマにもありますように、社会貢献する神職・神社というのは、目新しい動きももちろんありますが、全体としてその数は多くはありません。
なぜ少ないかというと、神職養成における問題が一つ挙げられます。つまり教育・教学上の問題でもあり、神職の教育・研修、養成におけるプログラムのなかには、神職にはこういう社会貢献活動が必要だとか、社会貢献活動をするためにはこのようなスキルが必要だとするような研修・講義が用意されているかというわけではありません。あっても極めて少ない機会のみです。全くないわけではないのですが、『神道教化概説』という神社本庁指定の教科書にわずかに社会福祉活動のことが書かれているだけで、それを教える機会も限られている現状にありますので、どちらかといえばその数は少ないといえます。また、神社の社会貢献活動に関しては、若干の新しい動きが個別にはあるかもしれませんが、実際に神社ならではの社会貢献活動ということになると、社会貢献のための、いわゆるボランティア活動とか、一般的にいうところの福祉活動にあたるような活動もなされていないわけではないのですが、そういう福祉的な活動よりも、むしろ社会教育にかかわる活動が主で、その点は昔から変わっていません。そうい った神社活動の特徴とか活動の傾向も、先ほどいった神職養成や研修の面でやはり影響していると思います。ですから、近年多くなされている災害ボランティアや特徴的な福祉的活動に近いような活動というものは、30 年前に比べては増加致しましたが、他の宗教教団と比べれば、まだまだ少ないといえるでしょう。
それから「夏詣」の件ですが、この「夏詣」の活動を行ない始めた神職が、いわゆる寺院でいう寺子屋的なものを神社でやってみましょうという「社子屋」という活動も、この「夏詣」を行っている神社で行っておりまして、わずかですが、「夏詣」とともに増加している状況にあります。神社界には、神道青年全国協議会という若手神職の団体があり、都道府県ごとに各神道青年会が結成されています。その青年会に所属していた一部の神職さんたちが「夏詣」を行ない始めて、これまで活動してきた青年会での人のネットワークのなかで徐々に広がりつつあるという状況です。今後、この夏詣や社子屋が定着するか、していくか言われると、その活動が約 10 年余経ってみて、まだ、一部の神社のなかでしか行なわれておらず、まだ定着にまでは至っていないという状況にあります。
こうした活動も含めてですが、福祉的活動や社会貢献活動も、現状、教化活動の主体になっている神職自身の思想や意識、つまり極めてボランティアに対する意識が強い神職とか、あるいは社会福祉学に関する、いわゆる一つのスキルとして大学などで学びを修めた神職が、自分自身にかなり強い福祉的活動への信念・理念があって、なされている活動であるという点です。
それを実際に神社神道の教学、教化活動のなかに取り入れられるか、あるいは教育、研修、養成のなかにおける問題として、どこまで取り扱っているかと言われると、先ほど紹介した教科書を用いて行われている「神道教化概説」、「神道教化概論」という神職養成の学科目のほんの一部分でしか教えられていません。これは神職教育のなかで臨床心理や神道的なカウンセリングについても、ほとんど教育・指導がなされていないということにも通じるもので、神社や神職の社会貢献や社会活動についての数は全くないわけではありませんが、まだまだ少ない状況にあるというのが現状かと思います。
次に、神社界の社会活動にかかる具体的にここ十数年のデータを一部挙げてみました。
稲作の体験学習や自然体験学習、総合学習というものに関していえば、一定数なされていると思いますが、顕著な点は何かといわれると、どこも数字としては軒並み右肩下がりの傾向にある点です。
特に昨今のコロナ禍のなかでは、そもそもコロナ禍以前を考えると、神社の行う活動自体に、氏子や総代、一般の崇敬者を大勢、神社に集めてこそ行なえるという活動・事業が多いですから、そういう意味ではコロナ禍になって、人が集められなくなったことにより、活動そのものが、中断しているものも多く、その継続がかなり苦しい状況にあります。苦しいというより、活動自体が縮小傾向にあるというのが事実でしょう。これが、今後コロナ禍が収まって、どのようになっていくかと言われたときに、急激に右肩上がりになっていくのかと言われたら、そうではなく、現状維持もしくは、漸減傾向になっていくという傾向も考えられるのではないかと思います。
また、今、スライドに掲げている数値には、一部揺らぎがあります。たとえば相撲場でも平成 21 年が 544 ヵ所、令和2年が 395 ヵ所ですが、平成 26 年と 30 年を比較してみても数に大きく開きが出ているものが見られます。また急に数が上向くなんてことはどう考えてもあり得ません。各神社庁を通じて行っているこの統計調査そのものに若干問題があるのではないかという側面も考えられるわけですが、一方で毎年ほとんど変わっていない数値もありますので、あくまで概況、おおまかな傾向として窺うことはできるだろうと思 っています。そういった意味では、具体的な神社や神職の社会活動としても見たときに、ある程度の社会教育的な活動をやっているということは間違いないのですが、実は数的にみれば、年々減少傾向にあるといえましょう。
加えて、コロナ禍前とコロナ禍後で、社会活動にかかる人的な役職就任数で比べてみますと、例えば平成 31(令和元)年は、コロナ前と比べてみますといずれも下がっています。
公民館とか博物館の役職に関していえば、平成 27 年ぐらいから神社本庁が調査のあり方、調査項目の聞き方を若干変えていますので、役職就任数というものが増加しています。その点でやや揺らぎが見えるのですが、増えているからと言って、コロナ後に何か特別なことがあったのかといわれるとそんなことはないということです。
数的なものでいえば、コロナ前とコロナ後で比較すると、神社の社会活動には、子どもや大人を集めて、大勢の人々に集まってもらって行なう活動が多く、その活動そのものに、大変意味があるものが多い。ですから、そういったものが、やはりコロナ後にやはり減少しているということは明らかで残念なことであると思っています。
続いて神社の数については、神社本庁の包括下の神社は、昔はよく 8 万社と言っていました。先ほど石井先生も 7 万 9 千と言われていましたが、実はその数は、現在、7 万 8千 5 百を割っています。
したがって、約 7 万 9 千と言えない状態になってきているというのが事実です。寺院とか教会に比べれば、施設数に対して宗教者である神職がその施設に専従・専任している数はもともと少ない。これは昔からです。例えば、明治の初めから戦前期においていえば、神職の数というのは約 1 万 3 千~1万 5 千人の間の数字でありました。一方、神社数が明治から昭和 20 年までで約 19 万~11 万社です。もちろん明治末期から大正初期にかけて政府による行政施策で神社整理というのがなされましたので、その点で明治初期にくらべると著しく神社数が減ったという側面はありますが、基本的に施設数に対する専従者の数が 1 を超えることはないというのが現在まで変わらない点であろうかと思います。
これに対して、教会とか寺院は、一般的に言われていることですが、施設数に対する宗教者の専従数は神社よりは多い。こういう側面がまず前提にあるということで、ここ 30年の神社数というものを、過去のものも含めてデータとして並べておきました。先ほど板井先生からも紹介されていましたし、板井先生から、石井先生による神社数のデータの分析も少し紹介されていたましたが、もともと神社は、基本的に過疎には強い側面がみられます。それは、先ほど言いましたが、もともと神職がその施設に対して一人必ず専従、専業として常駐しているわけではなく、神社を多く兼務し、神職専業ではなく他の職業と兼業でやられている方が多いということが戦前からの実態です。しかしその状況も極めて厳しくなり、神職だけでなく、氏子総代の側の数字も含めて神社を支える足腰が弱くなってきているということです。
近年、もう一つ言える問題として、先ほど神社本庁の包括神社の数が、7 万 8 千 5 百を割ったという話を致しました。神社の合併数と神社の設立数を比較すると、昭和 50 年代までは、神社の設立が多く、30 件から 20 件はありました。昭和 60 年代も 20 件以上あ って神社の設立が一定数あるということは、包括下の神社の数が増えることになるわけですが、この 5 年ぐらいを見ていただくと、設立数は 1 か0、あっても 2 件くらいです。一方で、神社の合併というのは、神社の数が減ることを意味するわけですが、合併そのものは神社本庁の草創期からありました。しかしながら、昭和 50 年代までは神社本庁としても合併数が毎年ごく僅かであったこともあり、数値としてはきちんと公表をしていませんでした。ところが、数としてはあまり重視されてしていなかったものが、昭和 60 年代以降、設立の数よりも多くなり、神社合併の数も数値として公表されるようになりました。
昨年の令和 2 年を見てみますと 65 件、それ以前は約 40 件を超えるくらいの件数です。つまり各都道府県で 1~2 件は神社の合併がみられるようになったということです。
先日、埼玉県内の現状についてお話を伺いましたら、近年は毎年約 2 件から 3 件くらいで、特に申請事務の書類を整備して提示したことにより、神職が事務処理をやりやすくなったので、数年前はほとんどなかった合併が増えてきたとのことでした。現状で、神社界の数値として明確に増加しているものはなにかというと、女性神職の数で、これは後継者不足や少子化などが理由だと思われます。
まとめとして、社会活動がなかなか増えてはいない。あるいは社会貢献活動がそんなに多くないという現状を俯瞰していえることは、やはりこれから神社の社会活動が活発になっていくというよりは、どちらかというと、なだらかに減少傾向が続いていくのではないかと推測されるということです。加えて、社会活動の活発化、増加を阻む要因があるということです。とくにコロナ禍のなかで人を集めて何かの教化的なイベントや祭事を行なうという活動自体が、社会的距離や人的接触を避けるという新型コロナウィルスの感染防止対策によって縮減傾向にあるため、そういった意味においても、やはり今のうちに将来への対策を考えていかなければいけないということだと思います。
それから、神社数の将来ということですが、先ほども言いましたように、神社はそもそも過疎には強い部分があり、歴史的にみても古くは江戸時代から岡山や水戸、会津など地域によっては沢山の数の神社の合併がなされており、さらには明治末期の行政施策による神社整理によって数万単位の神社の合併がなされてきたわけですが、近年特にいえることは、神社の合併自体についていえば、どこの神職の方々も事務的にも大変なのでなるべく合併をしたくはないというのが本音です。あるいは地域の氏子・総代の側としてもしたくはない。それゆえ合併し難い、合併を阻む要因は多くあります。神社も寺院と同じく利害関係者も多いことから、なかなか合併をしたくないという一方で、神社の合併をしないととくに過疎地では、神職も兼務社が増加して手が回らなくなる、神職そのものの人手が足らなくなってまともな神社運営ができなくなるという問題もあります。ただ、近年、神職の数自体は全体としては増えている一方で、地方の過疎地では、お金を集める氏子数そのものが少なくなり、社殿の維持管理というものが行うことすら難しくなってきました。つまり近年増加する大雨や地震などに伴う自然災害などで、社殿が大破してしまったときに、氏子に何を言われても、社殿の復興や維持管理をするための氏子数がなく、お金も集められないので、もう社を担うことができないから合併しましょうというケースも増えており、否が応でもそうした「合併」という文字が、神職の目の前に突きつけられてきていています。今までだったら、なんとか、合併をせずに乗り越えてきたところが、「それはもう無理、やらざるを得ない」という段階に入ってきているのが現状です。とくに東日本大震災以降、自然災害などによる社殿の修繕問題を契機として、「じゃあ合併しましょう」ということになってきた傾向がみられます。
それに合わせて、今までは合併を申請するための書類や会合を開いたり、地元の調整がいろいろと面倒くさいので、事務的な手続き的にもやりたくないということでした。神職自身が非常に気力・体力を使い、かつ事務的な手続きに時間がかかるということで、社務を優先して、合併にかかる手続きはやりたくないということでしたが、近年、申請書類や神社庁への手続きも事務的に整備され、扱いやすいようになったので、ここは「いっちょやってみようか」というようになってきているというのも、近年の合併が増えてきているということの理由の1つだと思います。
これは神職さんたちにもいろいろ伺ってみますと、
ということなどがいえましょう。
合併数は、現状は各県から1件から3件程度です。今後急激に増えるのか、なだらかに増加をしていくのか。今後も神社の合併数が増加してゆくことは、間違いないわけですが、各県平均で 1 件から 3 件程度のものが今後はどれくらい増え、どこで止まるのかといったところもあると思います。今後も少子高齢化という社会状況が続くと思われますので、これが今後、どこかの時点で落ち着く時期がくるのか、あるいはこのまま右肩下がりを続けるのか、ということもあろうかと思います。
さきほど少し申しましたが、特にやはり毎年のように起こる大規模の自然災害などで、社殿の維持管理のためのお金を集めるということが非常に難しくなってきている現状にあります。例えば、福岡県の朝倉市では、5年前に市の地域全体が長期の大雨による大水、土石流で流されてしまった際に、自らの住居すら直せない状況で神社や寺院の復興というものに対して、地域の人たちから神社復興のための寄附金、奉賛金を集められないという状況がみられます。加えて、朝倉市地域以外の人は流された市内の小規模の氏神神社の復興にはほとんど関連性、メリットがないので、お金を寄付するということはないわけです。加えて地域の人もお金を奉賛する余力がない上に氏子数が少なく、宗教施設である神社に対しては、災害復興のためとはいえど、行政の支援、補助金も当然受けられない。そういったことも神社の合祀・合併の要因などになっていくことは、これは東日本大震災でも、私が調査した茨城県内で東日本大震災の津波で大きな被害を被った沿岸部の神社の状況を聞いても同様でしたので、そういったこともあろうかと思います。先ほどから、板井先生による量的な、またグラフ、数値的な話がありましたが、私の方からは質的な話ということで、一応このようなことが言えると思います。
私からの報告は以上です。どうもありがとうございました。