庭野平和財団シンポジュゥム 講師ご挨拶

2030 年の予想という非常に難しい問題をいただきましたが、私なりに考えていることを紹介します。

国勢調査のようなもので、5,6 年に一回宗教に関する調査を実施しています。今回は第11 回の調査 2021 年 7 月 1 日を調査基準日として取り上げました。

宗勢基本調査

本来は一昨年行なう予定でしたが、よく皆さんご存じのとおりコロナのため、一年延期し実施しました。第 10 回は、6 年前、第 9 回も6 年前の 2009 年です。第 11 回からすれば、 12 年前になります。因みに第 1 回は、1959 年に実施しています。

解散・合併を考えている寺院は、第 10 回の調査では、平均 18.1%で2割弱ぐらいが考えていると答えていました。

青色の矢印が付いている石川県や福井県近辺の北陸で、真宗地帯と呼ばれる信仰が非常に盛んなところです。この辺の割合が非常に増えてきています。

第10回での課題 お寺の存続

いっぽうで、注目していただきたい点は、滋賀県は寺院も多く、もっとも零細な単位で寺院を運営されていますが、滋賀はおよそ平均ぐらいです。そして、佐賀県は 17 市町地域が過疎です。佐賀教区といい、佐賀県全体にあたりますが、佐賀教区では、平均よりず っと数値が低いということが分かります。このことから、過疎地域だから寺院運営が厳しいとは一概に言いにくい面があることが分かります。そのほか、東京や福岡といった大都市は低く出ているということが理解できます。

さて、第 10、11 回の調査でいろいろ数値が出てきました。例えば、本願寺派の場合は、定例法座は、第 9 回から第 10 回にかけて大きく数値が悪化しました。

第10回での課題:定例会

それから、第 10 回の調査では、いろいろな数値が大きく悪化したことが分かりましたが、私の肌感覚では、危機意識はそれに比べると薄いように思われます。わずか 6 年でこれだけ数値の低下がみられたわけです。この変化の速度に注意しないと、今後はますます状況が悪くなっていくと思われます。

第10回での課題:危機感のタイムラグ

第 9 回と第 10 回を調べると、いっぽうで、もちろん多死社会に突入していますので、葬儀数が増えていきます。もちろん、このなかには直葬なども含まれていますが、葬儀が増えることが要因となって、危機意識が薄くなっているのではないかと考えられます。つまり例えば、平均 18.1%というのは、これが現実に即しているのか、僧侶は状況が的確に把握できているのかどうかというのは検討が必要と思われます。

第11回調査:報恩講座数

次に第 11 回では、例えば、報恩講の座数をここに挙げてみました。報恩講というのは、真宗寺院のも最も根幹にあたる活動で、親鸞聖人のご命日に行なう法要です。一座というのは、昼間に 1 時間程度行なうというような形です。長く開催するところは一週間ぐらい継続して行ないますが、一座のみの割合が図のように高くなっています。報恩講はどうしてもお参りの数が少なくなってくると、回数を減らすなどして工夫して維持されていますが、維持することが困難になっていることがうかがわれます。

また坊守(ぼうもり)です。浄土真宗の特殊な言葉にですが、住職をサポートする立場の人のことです。かつては住職夫人や母親が多かったのですが、現状では、男性でも女性でも坊守になれます。この坊守が真宗の教えを学んでいないという割合が、第 10 回と 11回に比べると4%ぐらい上がりました。

第11回調査:坊主の学び

言い忘れましたが、浄土真宗の本願寺派の場合は、坊守を含む家族で寺院を切り盛りしている場合が多いため、坊守の活動はすごく重要です。ある意味、住職よりも中心になっているとも評価されていますが、そうした立場にある方が、仏教にふれる機会が減ってきていると言えます。

さらに質問のなかにあった後継者問題ですが、これは第 11 回調査では決まっている寺院は 44%、決まっているがあまり確認していないのが 26.1%で、合わせて7割弱というのは厳しい数字です。さらに後継者が決定しているが、寺院護持の見通しがつかない寺院が、約 5 割という数値になっています。後継者はいるけれども、このまま寺院を維持して、受け継いでいっていいのだろうかと逡巡してしまう状況にある寺院が非常に多いということです。

第11回調査:後継者

それを裏付ける結果が、今回の調査から明らかになりました。この度の第 11 回調査では、寺院の収入をどこに支出しているかを聞きしました。

第11回調査:人権費の支出

20%は 0 割だと回答でした。おそらく、このなかには、自分の給料を寺院に支出している住職もたくさんいると思われます。つまり、住職自身が寺院に懇志を支出しているというのが、現在の寺院の状況です。
また、人件費が支出の 7 割から 10 割を占める寺院を含めると、全寺院の 4 割ぐらいです。つまり、寺院の改築・修復にあてられる積み立て等には回せないという寺院が多いということであり、そうすると寺院の継承が将来的に困難になります。こうした状況が、先ほどの継承させることへの逡巡の思いにつながっていると思われます。

それから、婦人会活動です。

第11回調査:婦人会活動

これも、本願寺派のいわゆるさまざまな活動のなかで、最も活発でお寺を支える最も重要な組織と言われています。これがあるから、本願寺派の寺院はがんばれているという面があります。大事にしなくてはけないところなのですが、この婦人会が活発だという数字も、残念なことですが、僅か約 6 年で8%ぐらい落ちています。

続いて門徒戸数の問題です。

第11回調査:門徒戸数

これは、先ほど相澤先生も言及されていましたが、今回の調査では門徒戸数 100 軒未満の寺院が約5割ということが分かりました。おそらく曹洞宗よりもずっと規模は小さいと思います。ただし、門徒戸数が、必ずしも寺院運営に直結するわけではありません。右は第 10 回の調査ですが、グラフの X 軸が門徒戸数です。Y 軸が寺院の収入です。沖縄は変な位置にありますが、沖縄というのは、門主制度がほぼないため、このような結果になっています。

中間の門徒戸数の群は、大阪にみられるように非常に高いところから、少し低い地域まで分かれています。これには、いろんな要因があるのですが、その中でも、年忌法要がどれだけ継続するかが重要な要因となっていることが分かります。

たとえば百回忌まで必ず行なうという地域もあるしが、七回忌ぐらいまでしか続かないという地域もあります。当然、長く続いているところのほうが寺院運営は安定します。そういう観点から見ると、例えば、五十回忌まで続いていると答えた寺院の数は、減る傾向が顕著であることも分かります。つまり、年忌が全体として続かなくなっていることが寺院運営を厳しくしている面であるということです。

第11回調査:門徒戸数と収入 第11回調査:年忌法要と継続

上の棒グラフは、お盆参りが0の寺院の数です。数値が低いほど、お盆参りをする寺院が増えたということを示しています。浄土真宗本願寺派の場合は、従来、お盆参りは積極的ではなく、先ほど申し上げたような報恩講が中心です。ところが、昨今の傾向としては、需要のあるお盆参りを行なうようになったという寺院が多いということがここから理解できると思います。

第11回調査:お盆参り

また、車で一時間以上かかるところに門信徒がいるかという質問には、第 10 回宗勢調査では 60%が「いない」でしたが、第 11 回調査では 40%になっています。

第11回調査:門徒の拡散

これはものすごく数値が上がっています。これは移転した門徒が突然出てきたということではないと思います。遠くても門徒として付き合いを継続するという寺が増えたといえます。以前は遠方に転居した場合ご縁が切れていたのが、少し離れていても門徒としての付き合いを継続するようになったものと推測しています。

このように、現状に対する対応も見られますが、最初に紹介した、解散・合併という数値はどうなっているかを見ると、第 11 回調査では約5%上昇しました。つまり危機意識が高まってきているということになります。

第11回調査:拡散・合併

この結果は、厳しい実情が少しずつ認識できるようになってきているものと理解しています。

築地本願寺

最後に築地本願寺の活動例をいくつか挙げながら、築地の活動というのは、どういう理念が背景にあるのか報告させていただきます。

まず、1 番目としてワンストップサービスです。基本はエンディングに視点をおいていますが、来た相談や依頼などはすべて受け入れられるような態勢をつくっています。そのための電話を取る人材を育てる教育をしているという状況です。

2番目は銀座サロンです。温泉や体のつぼの講義まで行なっています。簡単に言うと、銀座に築地のサテライトをつくり、いろいろな催し事を開催しています。築地本願寺もアクセスが悪いところではないのですが、より電車等のアクセスがいいところで催し事、学びの場を設けようというわけです。

築地 合同墓

そして、最後は合同墓です。値段はおよそ 30 万円から 100 万円で、これもニーズが高いです。そのほかレストラン、書店、さらには屋上を開放しようという計画もあります。

つまり築地本願寺は、寺院を窓口として、すべてのニーズに対応しようとしています。非常に広範なサービスを提供する場をつくり、それが、どんどん成長していっているのではないかといえます。それは、結局人口が減っていくなかで、パイが増えることはないわけです。そこであらゆるサービスを提供することによって、活路を見出そうとしているように感じています。言い換えれば、お寺の可能性を広げているのが築地本願寺の活動といえるのではないでしょうか。

宗門の状況

最後にまとめておきたいと思います。解散・合併の数値が上がっていることで、危機感が広がっているように思いますが、実は、第9回や第10 回の以前の調査でも、かなり寺院運営において深刻な落ち込みが見られます。きょうは、あまり詳しく紹介できませんでしたが、早くから過疎になったところでは適切な現状認識が出来ていたものの、石井先生から寺院が消滅する可能性があるという研究結果が示されました。

その厳しさをきちんと認識できていなかったことが明らかになりつつあるのが現状であると感じています。近い将来に関しての現状認識が出来ていなかったわけです。

そうした中で宗派の強い部分が揺らぎ始めてきたため、すなわち婦人会や定例法座、坊守などの現状に揺らぎが見え、その結果、危機感が強まり始めたと思います。ただし、過疎地だから収入が少ない、小規模寺院だから弱いというわけではありません。そこは、いろんな工夫をしながら寺院運営することで、厳しさを緩和できる面もあるだろうと思われます。この点は、あまりお話できませんでしたが、佐賀県は、その顕著な例と思います。

2030年の対応とサービス

遠い距離への門徒への対応など、徐々に危機的な状況への対応が始まりつつありますが、2030 年までに、危機のスピードと、それに対する対応と、いよいよ迫る解散・合併との闘いみたいな状態になっていくのではないかと予測しています。

私は所属する宗門の事務部門から危機についての警鐘を鳴らし、迅速な対応を促していきたいと思います。どういう対応が可能なのかといえば、やはり築地本願寺に見られるようなユニバーサルなサービス提供を検討する必要があると思います。多様なサービスを行なうことによって、すなわち寺院がやれることを一つでも増やすことで、解散・合併が増えていく状況を少しでも遅らせたり、我慢できるような状態にできないかというように考えています。

私からのご報告は以上です。